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The Brave One 黒い牡牛

アメリカ映画 (1956)

最近、とみに “残酷だ” と批判されている闘牛。その闘牛を主要テーマにした感動の物語。主人公は、メキシコの片田舎にある大きな牧場の牧童を勤めている父の12歳になる長男レオナルド。寛大な牧場主から譲り受けたオスの子牛ヒタノを可愛がるが、牧場主が血道を上げる自動車レースで死亡すると、それまで牧場の管理を請け負ってきた “血も涙もない” 会計士がヒタノを奪い取り、メキシコシティの闘牛場Plaza México(プラサ・メヒコ)〔1946年に完成した収容人数41262名の世界最大の闘牛場〕に連れて行ってしまう。レオナルドは、家出して、牡牛の運搬用トラックに潜り込み、メキシコシティに着くと、何とかヒタノが殺されないよう〔闘牛に出場しなくて済むよう〕、必死で駈けずり回り、遂に “買い主に善処を求める大統領の手紙” を手に入れる。しかし、サイドカー付きの警察のオートバイで闘牛場に着いた時には、あと一歩で止めることができなかった。満員の観客を前に、メキシコNo.1の闘牛士がヒタノと闘う。映画は14分を割いてその死闘を描く。そして、ヒタノの頑張りに対し、観客から巻き起こる “Indulto(赦せ)!” の大合唱。18年ぶりとなる奇跡の “赦し” により、ヒタノはレオナルドと故郷に戻ることができる。この映画は、ダイ・トランスファー方式によるシネマスコープ・サイズのごく初期の作品〔高画質だが高コストなので1974年に一旦廃止された〕。そのため、今日から見れば、安かろう悪かろうで “罪作り” だったイーストマン・カラーを使った映画が褪色の危機に瀕しているのに対し、半世紀以上を経て鮮明なカラー映像が楽しめる。映画の最後に、メキシコ政府と、メキシコの人々に対する深い感謝の言葉が示されるので、特撮のなかった時代、闘技場に実際に4万人のボランティアを集めて撮影したのであろう。最近になり、2016年の東京国際映画祭でも特別上映された。それを契機に日本版のDVDも新たに発売されたが、こうした名画が再発見されることは、とても良いことだ。

妻を亡くし、その悲しい葬儀の日に、父が牧童として働いている大牧場の会計士バルガスが、他人の悲しみなど無視してやってきて、父が牧場主からもらった老いた雌牛も、そこから生まれる子も、牧場の所有物だとクレームをつける。そして、その夜、雌牛は雄の子牛を産んで死ぬ。12歳のレオナルドは、その子牛に、スペイン語でジプシーを意味するヒタノという名を付ける。その日学校へ行ったレオナルドは、偉大な先住民の大統領フアレスの話を聞いた後、先生に牧場主宛に、“ヒタノは、父が牧場主の姪を助けたお礼にもらったもので、うちの子牛だと認めて欲しい” とお願いする手紙を書いてもらう。しかし、その返事が来る前に、ヒタノはバルガスの指示で牧場の焼き印を押されてしまう。それからしばらくして、牧場主からの手紙が来て、ヒタノは晴れてレオナルド家のものとなった。しかし、愚かな父は、①その手紙を大切に保管せず、②子牛に自らの焼き印を追加で加えなかった。映画では、レオナルドの年齢は変わらないように見えるが、それから4年の歳月が流れ、ヒタノは、闘牛になるか肉牛になるかを検定する試験を受けることになる。その試験の数日前にやってきた牧場主の一行の前で、ヒタノは道路の真ん中に立って車列の進行を妨害し、愚かな会計士がクラクションを鳴らしたので、怒って車に突撃する。この事態は、レオナルドがヒタノを叱りつけ、牧場主には子牛をもらったお礼を述べたことで、丸く収まる。ヒタノは、検定を最優秀で通過し、会計士は、ヒタノが牧場の所有牛のリストにはないが焼き印が押してあることに注目する。牧場主はとてもいい人だったが、自動車レースに熱を上げ、レオナルドが卒業した日に、フランスで事故死し、破産したという知らせが届く。裁判所は、牧場の焼き印を押してある牛はすべて競売にかけ、破産を埋め合わせるよう命じる。ヒタノは、リストにはなくても焼き印があり、牧場主からの手紙は見つからず、レオナルド家の焼き印もなかったことから、会計士は事情を知っていたにも係わらず、ずるく立ち回って売ってしまう。こうなれば、ヒタノの運命は確定する。闘牛場に連れて行かれて、殺されるしかない。何とかしようと決意したレオナルドは、ヒタノをメキシコシティに連れて行くトラックに無断で乗り込む。幸い、一緒に乗っていた男は、事情を知らないので、レオナルドに親切で、闘牛場に着いてからも、もし嘆願するのなら、相手はガオーナだと教えてくれる。ただ、闘牛が始まるまでは4時間の余裕しかない。その間に、レオナルドはヒタノを助けようと孤軍奮闘する。ガオーナが見つからないので、以前、学校でならったフアレス大統領を思い出し、今の大統領に会おうとするが、3度間行き先を間違えて、ようやく私邸に辿り着く。中に入る許可は出なかったが、何とか潜り込み、大統領に直接会って事情を打ち明けて嘆願する。そして、ガオーナ宛の親書を書いてもらう。しかし、それまでに何度も回り道をしたせいで、闘牛場に戻った時、間一髪でヒタノの出場を止めることはできなかった。そして、ヒタノの “死への闘い” が始まる。相手は、メキシコNo.1のマタドール。しかし、逞しく、かつ、強靭に育てられたヒタノは、前の3頭にはない異質の強さを発揮し、マタドールを3度も投げ倒し、2度のエストックによる “殺し” の試みをも跳ね返す。その尋常でない強さを見た観衆から上がった “Indulto(赦せ)!” の声が闘牛場を包み、ヒタノの命は救われる。それは、レオナルドにとって、人生で最高の瞬間だった。

マイケル・レイ(Michel Ray)は1944年7月21日生まれ。大方の子役と違い、イギリスの裕福な家庭に生まれる。母はイギリス人だが、父がブラジルの外交官(マイケルが幼い時に死亡し、母は再婚)。本名は、Michel de Carvalho。どう発音するかは分からない。後半は父親の家族名なので、ブラジル系ポルトガル語で「デ・カルヴァーリョ」であることは確か。前半を英語読みにするかポルトガル読みにするかだが、イギリス人の母によりイギリスで生まれたので、英語読みの「マイケル」と考えるのが最も順当であろう。ただ、彼は、イギリスを離れ、ジュネーヴのインターナショナルスクールで教育を受ける〔再婚した義父に煙たがられた?〕。お陰でスキーが上手になる。そこで、“スキーのできる子役” を探していた “両親の親友のプロデューサー” に頼まれて出演したのが『The Divided Heart』(1954)(1枚目の写真)。その後、本作の主役を経て、西部劇『The Tin Star』(1957)、ミステリー『Flood Tide』(1958)にも出演する(2・3枚目の写真)。しかし、『アラビアのロレンス』(1962)に、アラブ人の孤児の役で出た時(4枚目の写真)に、俳優としての将来に見切りをつける。彼は、ジュネーヴのインターナショナルスクールで、フランスの学士号を得た後、アメリカのハーバード・ビジネス・スクール(経営大学院)に入学する。超エリート・コースだ。それと同時に、故国イギリスの冬季オリンピックの選手に選ばれ、1968年のグルノーブルではスキー、1972年の札幌と1976年のインスブルックではリュージュに出場している。1983年に、スイスのサン・モリッツでスキーをしていて、10歳年下のシャーリーン・ハイネケンと恋に落ちて結婚。彼女は、名前の通り、あの有名なハイネケン・ビールのオーナーの娘だった。2002年に娘の父が死ぬと、30億ポンドの遺産を受け継ぐ〔当時の5600億円〕。マイケルは、ハイネケン以外にも幾つかの企業と関係を持ち、日興証券の国際部門のトップに着いたこともあり、夫婦で優雅な生活を送っている。
  
  
  
  


あらすじ

メキシコの片田舎。教会での葬儀を終えた一家が、帰途に着く。先頭を行くのは、手に火の点いたロウソクを持った主人公のレオナルドと、妻を失った父(1枚目の写真、矢印はレオナルド)。その後ろは、姉と、その彼氏。家の前まで来ると、父が参列者にお礼を言い、参列者はそのまま帰って行く。そこに近づく2人の男。1人は父が牧童として雇われている大牧場の牧童頭のパルマ、もう一人は、牧場主ドン・アレハンドロの会計士バルガス。こちらは、帳簿のことしか頭にない、冷血極まりない嫌な男。パルマは、「バルガスさん、何もこんな時に、不幸のあった家に、悪い知らせなど持ってこなくても」と言うが、会計士には人情のかけらもない。彼は父に、「ビデガライの焼き印と “R”の焼き印のある黒の雌牛の件だが、君の名前はロシーヨだな?〔“R” の焼き印はRosilloのことか?〕。「そうです。あなたのおっしゃってる雌牛はうちのものです」(2枚目の写真、矢印が非道なバルガス)「ドン・アレハンドロが去年下さいました」。「君の思い違いだ」。それを聞いたレオナルドは、「でも、あの雌牛はうちのです。すごく年取ってるけど、今、最後の子牛を孕んでるんです」と、余計なことを言う(3枚目の写真)。さっそく、会計士は「子牛だと?」と、所有権に関心を持つ。父は息子を制するが、子牛のことがバレてしまった。レオナルドさえ黙っていれば、雌牛はすぐに死に、会計士にはそれで終わりだったのに。「お前らは、子牛も自分たちのものだと言う気なんだろうな?」。「生まれたら、そうです。子牛は私のものです」。「子牛は当然、牧場に帰属するから、生まれたら帳簿にその旨記載する。牧場の牛を勝手に所有するなど許されん」。牧童頭は事情を知っているに違いないが、何のサポートもしてくれない。
  

その日の夕食は、姉が用意する。レオナルドは、いつもの席に母が座っていないので、寂しそうだ(1枚目の写真、目線は母の席)。壁の窪みには母の写真が飾られ、両脇に2本のロウソクが灯されている。極めて簡素なしつらえだ。レオナルドがベッドに入っていると、雷鳴が轟く。落雷の音と、牛の鳴き声を耳にしたレオナルドは、吹き降りの中、様子を見に行く。レオナルドはかなりの距離を走って森の中まで行く。すると、雌牛が落雷で折れた太い枝の下敷きになっていた〔①納屋がないので雷鳴に怯えてここまで逃げて来たのかもしれないが、山羊は逃げていないのに、なぜ? ②こんな遠くから、レオナルドのベッドまで鳴き声が届いたとは とても思えない〕。レオナルドは、枝をどけようとするが、重くて全く動かない(2枚目の写真、矢印は雌牛の頭部)。雌牛は死に、代わりに新しい産声が聞こえる。子牛は無事に誕生した。レオナルドは子牛を抱きかかえて家に戻る。朝、父がレオナルドの様子を見に行くと、彼は、子牛を自分の着ていた服で包み、床の上で一緒に寝ていた(3枚目の写真)。父に起こされたレオナルドは、「パパ、雷が木に落ちて、うちの雌牛は、僕が着いた時に死んじゃった。だから、連れて来たんだ」と説明し、子牛の顔に自分の顔をこすり付けて可愛がる。
  

父は、子牛を触ってみて、「何て力だ!」と驚く。「鳴き声も、サパタ〔メキシコの革命家〕のラッパみたいだ」。「勇敢になるよ、パパ、バリエンテ〔種牛の名〕の子なんだから。今日、学校に行かなくちゃダメ?」。「両親のように 読み書きもできなくていいのか?」。「ヒタノって呼んでいい?」(1枚目の写真)。「ヒタノ? ジプシーか?」〔Gitanoを英語にするとGypsyなので、闘牛に「ジプシー」と名付けたことになる〕「闘牛なんだから、恐怖で縮み上がらせるような名前にしなきゃ」。「だけど、ジプシーだよ。夜中、お母さんがいなくて 独りぼっちでさまよってたんだ。まさに、ジプシーだよ」。「好きなようにしろ。どんな名前でも、立派な牡牛になるだろう」。レオナルドは、「ヒタノ、僕のちっちゃなジプシー」と呼んで可愛がる(2枚目の写真)。他に牛など持てる身分ではないので、母牛が死んでしまった後、乳を飲ませてやれるのは、雌山羊しかいない。そこで、父は山羊を連れて来て、レオナルドはヒタノに山羊の乳房からお乳を吸わせる(3枚目の写真、矢印)。
  

次は、学校での歴史の授業の一コマ。女性教師は、教壇の横に飾ってある写真を指し、「いいですか、みなさん、あの写真が誰だか分かりますか?」と訊く。全員が「ベニート・フアレス」と答える。「その通り。では、教科書でマキシミリアンを探して」(1枚目の写真、矢印はレオナルド)。「マキシミリアンは船で海を渡り、フランス軍〔ナポレオンⅢ世〕の全面的な支援のもとで首都に進軍し、メキシコの皇帝の座につきました。大統領だったベニート・フアレスは、北に逃げました。マキシミリアンは元・大公〔ロンバルディア=ヴェネトの大公〕で、彼の一族は王家〔ハプスブルク家〕の血を引いていました。マキシミリアンのお父さんは皇帝で〔これは明らかな間違い→マキシミリアンの父フランツ・カール・フォン・エスターライヒは即位を辞退し、長男のフランツ・ヨーゼフに帝位を譲った〕、お兄さんも皇帝だったのです〔フランツ・ヨーゼフⅠ世〕。ベニート・フアレスはインディオでした。お母さんもお父さんもインディオで〔2人とも貧しい農民で、ベニート・フアレスが3歳の時に病死。彼は、12歳になるまで伯父のトウモロコシ畑で働いた〕、読み書きもできませんでした。マキシミリアンの友人は皇帝や皇后でしたが、ベニート・フアレスの友人はメキシコの人々でした」(2枚目の写真)「そして、フアレス、偉大なフアレスは、メキシコの大統領として、人々の声に耳を傾けました。これほど謙虚な大統領はありませんでした」(3枚目の写真)。この映画では、レオナルドがこの話を聞いたことが、後の行動に大きな影響を与える〔教師は何も言及しなかったが、マキシミリアンは、擁立者のナポレオンⅢ世が撤兵した後も地位に留まったため処刑された〕〔今回、メキシコの全歴史に初めて目を通してみた。以前『ザ・パーフェクト・ゲーム』の解説で、米墨戦争により1848年、アメリカにカリフォルニアなど多くの国土を奪われたことは知っていたが、その後に、驚くほど多くの政治的混乱がひっきりなしに続いたとは全く知らなかった。ベニート・フアレスは、その駒の1人に過ぎず、ポルフィリオ・ディアスによる長期安定政権の後、20世紀に入ると、反乱が頻発する〕
  

学校が終った後、レオナルドは、教師に頼んで手紙を書いてもらう。「すごく大事な手紙なんです。僕の代わりに書いていただけないでしょうか? 牧場主のドン・アレハンドロ・ベディガライ宛なんです」。「どんな手紙なの?」。「雌牛と、僕の子牛のことなんです。雌牛は死んじゃいましたが、ティエンタの日に、ドン・アレハンドロの姪御さんが闘牛の囲いの中に落ちた時、僕の父さんが助けたお礼にいただいたんです」(1枚目の写真)。それからしばらく月日が経ち、ヒタノも少し大きくなり、お乳を与えてくれる山羊よりも大きくなっている(2枚目の写真、矢印)。山羊は嫌がるようになり、そんな山羊をヒタノが力でねじ伏せたのを見て、レオナルドと姉は思わず笑ってしまう(3枚目の写真)。
  

その後、ヒタノが桶に向かって突進して行くシーンが、闘牛としての血筋を発揮した最初のシーンと言える(1枚目の写真、矢印は桶)。井戸の縁に座ったレオナルドは、「オレ〔Olé〕、ヒタノ、オレ!」と喝采を浴びせている(2枚目の写真)〔“オレ” は、観衆が闘牛士にかける声〕。ヒタノは、その声に応え、桶の次は鶏、その次は干してあった毛布に突っかかって行く。こうした一連のシーンの最後として、レオナルドは、自分の麦わら帽を標的に、ヒタノに突進する練習をさせる(3枚目の写真)。
  

ある日、牧童頭のパルマが馬に乗ってやってくると、「良くない知らせだ」と言って、父に手紙を渡す。「バルガスさんからの手紙だ。ヒタノの件だ」(1枚目の写真、矢印)。父は、どうせ読めないので、一度受けとると、またパルマに返す。代わりにパルマが説明する。「牡牛は牧場のものだと書いてある。俺は、他のと一緒に焼き印を押さんといかん」。「こんなの間違ってる、パルマさん。正義じゃない」。「分かってるよアミーゴ。だが、俺にはどうしようもない」〔現場の総管理人である牧童頭が、メキシコシティにオフィスを構えた権柄尽くの “たかが” 会計士に反論しさえすれば、何とかなると思うのだが(顔から見て、パルマは混血のメスティーソではなく、現地生まれのスペイン人クリオーリョのはず)… 牧童頭も父も気が弱すぎる〕。「あの子が学校に行ってる間に、子牛を連れて行くよ」。「賢いやり方だな」。父は、家に戻ると、ヒタノを牧場に連れて行く。父は、火を起こしたカマドのような場所で、焼き印を押すためのコテを赤くなるまで熱する。一方、レオナルドが家に帰ってくると、どこにもヒタノがいない。姉は、「ヒタノは、もう私たちのものじゃないの」と言うが、レオナルドは、「いやだ!」と言うなり、牧場目がけて走って行く。焼きゴテを熱している父の前まで行ったレオナルドは、「パパ、本当なの? ヒタノ、連れてかれちゃったの?」と訊く。「そうだ。ヒタノは、もう うちのものじゃない」(2枚目の写真)〔何という、従順で覇気のない父親〕。そのくせ、レオナルドが、「連れてかれちゃった」と言ってすすり泣くと、「泣いてるのか? 恥を知れ」と責める〔自分の力が足りなさを詫びるなら、まだ分かるが…〕。そして、レオナルドが会いに行こうとすると、「焼き印が済むまで待て」と命じる。そして、ヒタノに焼き印が押される(3枚目の写真、黄色の矢印はレオナルド、赤の矢印は焼きゴテ)〔後方に多くの牛が見える。これほどたくさんいるのに、バルガスは、なぜ、自分のものでもない牛の所有権に拘り続けるのだろう?〕
  

それから、どのくらいか不明だが時間が経ち、学校ではまた歴史の授業〔変なのは、映画の冒頭では、1864年のマキシミリアンをテーマにしていたのに、今度は、1815年のホセ・マリア・モレーロスをテーマにしている。歴史の授業は年代順に進めるもので、逆はあり得ないと思うのだが…〕。レオナルドは、以前と違い、授業など全く聞いていない。学校が終ると、教師はレオナルドを呼び止める。「あなたに手紙があるわよ。私宛に届いたから、読み上げるわね。でも、あなたに関することよ。ドン・アレハンドロは、あなたのお父さんに恩義があるって。だから、希望通り、子牛はあなた方のものだそうよ」(1枚目の写真、矢印)。レオナルドは、手紙を受け取ると、教師の手にキスして「ありがとう」と言うと、教科書を忘れて走って行く。向かった先は牧場の厩舎。「パルマさん、手紙がきたよ!」。「どうした?」。「ドン・アレハンドロからの手紙だよ」。「ドン・アレハンドロから?」。「そうだよ。ヒタノは僕らのものだって!」。手紙を読んで確認したパルマは、「文句のつけようがない。確かに、子牛は君らのものだ」。そう言うと、パルマは親しげにレオナルドの頭をポンと叩く(2枚目の写真、矢印は大切な手紙)。「ヒタノはどこ?」。「他の子牛達と一緒に、谷の反対側にいる」。パルマは馬で行くよう勧めるが、レオナルドは待ちきれないので、そのまま走って行く。そして、恐らく数キロは走り、川のほとりで草をはんでいる70頭ほどの群れをみつける。丘の上からレオナルドが、「ヒタノ!!」と呼びかけると、1頭が顔を上げる。レオナルドは、ヒタノ目がけて走り寄り、抱きしめる。「二度と連れて行かせないからね」(3枚目の写真)。
  

教会の鐘が鳴り、レオナルドは朝から髪の毛を櫛で梳(す)いている。姉は、分かっているのに、「水曜日なのに、一張羅着て どうしたの? 顔もそんなにピカピカにしちゃって」よ訊く。「祭日だよ」。「それで?」。「動物たちを祝福する日だよ」(1枚目の写真)〔“Día de Santa Prisca” の祭りでは、毎年1月17日に動物に対して祝福が行われる。ただし、メキシコ南部のTaxco(タスコ)という町のTemplo de Santa Priscaという教会での話。レオナルドは、この町の近くに住んでいたのだろうか? ただし、映画に映っているのは、その教会ではない〕。大小の動物を連れた子供達が 教会の正面から伸びる道に並ぶが、レオナルドはその一番外れにつき、ヒタノの前脚を折り、地面に跪(ひざまず)かせる(2枚目の写真)。それを見た司祭は、その敬虔な態度に感心し、「2倍の祝福を与えよう」と言ってくれる(3枚目の写真)。
  

それから、数年後。ある夜、父がレオナルドに、「来週、ティエンタ〔Tienta〕の検定がある。誰でも、ヒタノは勇敢な牡牛だって納得するだろう」と言う。「パパ、もしヒタノがいい成績でパスしたら、種牛として牧場に置いておけないかな?」。「ヒタノは、闘うために生まれてきた。それが定めだ」。「でも、もし、すごく勇敢なら、まだ4歳なのに闘牛場で殺されるより、勇敢さを子孫に伝えた方がいいんじゃない?」。「もし、飛び抜けて勇敢ならな」。「彼、勇敢だよね?」。「レオナルド、ヒタノが生まれた時、お前は命を救ってやった。連れ去られた時も、取り戻した。もし、ヒタノが勇敢なら、お前の好きにするがいい」〔牧場の所有物ではないので、そのまま老衰するまで飼っておいても構わないハズ〕。検定が近づき、ドン・アレハンドロの一行が車を連ねてやって来る。ドン・アレハンドロは、アメリカ人の美しい女性に、「このハシエンダ〔大牧場〕は200年以上、我々一族のものだよ」と説明する。「素晴らしいわ」。ドン・アレハンドロは、酒の入ったグラスを手に持つと、「ティエンタの成功に」に言い、女性の隣にいるもう1人の男〔検定に立ち会うメキシコで最高の闘牛士リベラ〕は、「美しいアメリカのセニョリータに」と言う。その時、車列の前に1頭の牡牛が立ち塞がる(1枚目の写真、矢印はドン・アレハンドロ)。牧場の焼き印があるのに、放牧地ではなく道路なんかにいるので、ドン・アレハンドロは不思議に思う。助手席に乗っている愚かなバルガスが、「警笛を鳴らせ」と運転手に言ったせいで、相手を敵と考えたヒタノは ドン・アレハンドロの乗った先頭車両に向かって突進する。お陰で、高級車の先端部が角で破壊される。その時、ようやく、事態に気付いたレオナルドが走ってきて、「やめろ、ヒタノ!」と叫ぶ。ヒタノは攻撃をやめる。「トント〔バカ〕! この間抜け! ダメじゃないか、ヒタノ! この罰当たり!」と言いながら、ヒタノを足蹴にする(2枚目の写真)。ドン・アレハンドロたち3人は、あれだけの猛牛が、おとなしく蹴られているのでびっくりする。レオナルドは、帽子を取ると、「あなたは、ドン・アレハンドロ・ベディガライさん?」と訊く。「私だよ」。「僕、レオナルド・ロシーヨです。あなたの牧童の一人ラファエル・ロシーヨの息子です」。「君に会えて嬉しいよ。私の友達のミス・ランドールにセニョール・リベラだ。君のお友だちの名を聞かせてもらえるかな?」。「ヒタノです。あなたが譲って下さった牡牛です。旦那様」(3枚目の写真)「いつもは、行儀のいい牡牛なんですが、あなたの自動車を攻撃するなんて」。ここで、恥知らずのバルガスが、警笛を鳴らすよう命じたことは棚に上げ、「牛を贈ったりするからですよ。警告したのに」と、いらぬ口を出す。レオナルドは、壊れてしまったパーツの名を上げるが、ドン・アレハンドロは、車から降りると、「すごく勇敢な牡牛にしか、こんなことはできない」と褒め、一生働いて賠償するとのレオナルドの申し出を、笑って却下する。バルガスが悪魔なら、こちらは天使だ。
  

いよいよ検定の日。戦意のない牡牛に対しては、食肉用との厳しい判断が下される。一方、順番を待っているレオナルドは、ヒタノに、「心配するな。槍で突かれても浅い。代わりに仕返ししてやれ」と教える。そして、いよいよヒタノの番となる。レオナルドは囲いの上に座って声援する(1枚目の写真)。ヒタノは、バリラルゲーロ〔馬に乗って長槍を持った男〕に向かって突進して行く。ヒタノの執拗な攻撃を見たバルガスは、「この牡牛は牧場の所有物のリストには入っていないが、焼き印がある」と言う(2枚目の写真)〔この言葉は、ヒタノの所有形態を知らないような表現だが、少し前に「牛を贈ったりするからですよ。警告したのに」と牧場主に文句を言ったことと矛盾する。それに、そもそも勝手に焼き印を押すよう命じたのも本人だが、そのことは とっくに忘れたのだろう〕。ヒタノは、遂に馬を押し倒し、バリラルゲーロを助けようと、数人がかりでヒタノの気を逸らす(3枚目の写真、矢印は倒れた馬の前に横倒しになったバリラルゲーロ)。ヒタノのしっぽを持って押えようとした姉の婚約者は、ヒタノに攻撃され、負傷する〔傷が重く、彼の “プロの闘牛士になる” という夢は消えた。しかし、後になって、姉は、これで “夫が死ななくて済む” とレオナルドとヒタノに感謝する〕
  

映画では、そこから、マタドールのリベラと、ドン・アレハンドロの新聞記事の紹介が始まる。リベラは「Golden Ears」というスペインの栄誉ある賞を獲得。一方、ドン・アレハンドロは、アメリカのクロスカントリーの長距離自動車レースでトップに立った。メキシコに凱旋したリベラは、メキシコシティの闘牛場で、2年続けて最優秀マタドールになる。ドン・アレハンドロは、パリ~カンヌの自動車レースで決勝に進出する。そして、レオナルドの通う学校では卒業式が行われている。卒業証書を渡されたのは3人〔かつての授業シーンには20名以上の生徒がいたが、学年混成だったのだろうか? それとも、途中でやめたのだろうか?〕。レオナルドは、3人中2番目に証書を渡される(1枚目の写真)。その祝いの席には、赤ちゃんを抱いた姉夫妻がいるので、少なくとも検定より1年は経っていることになる。レオナルドは、町のカフェテリアのような場所で、家族で卒業を祝っている。父は、隣の席に座っていた親友に、「成績はベストじゃなかったが、良かった。メキシコ史上最大のクラスの中で3番だった」と自慢する〔卒業生は僅か3人で、成績は2番、「最大」と大法螺を吹くのはいいのが、2番を3番に下げたのはなぜ?〕。レオナルドが、別のテーブルで見た新聞の一面には、顔写真と転覆した車の写真の下に、「メキシコを代表するスポーツマン、ドン・アレハンドロ・ベディガライ、フランスのロードレースで死亡。パリ~カンヌ・グランプリの先頭を争っていた時、車が制御不能に。広大な地所は、破産で差し押さえ」と見出しが躍る(2枚目の写真)〔なぜ、200年以上続いた一族の大牧場が、これだけのことで破産するのか?〕。破産処理では、悪辣なバルガスが先頭に立ち、集まった多くのバイヤーを前に、「みなさん、これは、メキシコで最も勇猛で優れた血統の牡牛を買う またとない機会ですよ」と声をかける(3枚目の写真、矢印はバルガス)。この卑劣極まる男は、競売にかける牛の中に、平然とヒタノを加えていた。
  

ヒタノがリストに入っていることを知ったレオナルドは、家に走って戻ると、ドン・アレハンドロからの手紙を捜す。この手紙は、ヒタノに次いで大切なものだったのに、どこにしまったのか、あるいは、失くしたかの記憶すらない〔明らかにレオナルドの不注意〕。部屋中捜しまわるが(1枚目の写真)、手紙はどこにもない〔父も、大切にしまっておくよう指示しなかったことで同罪〕。そこで、レオナルドは暗くなってから牧場の厩舎に行き、閉じ込められしまったヒタノを助け出し、森の中へと逃げる。夜になり、レオナルドはピューマに襲われるが、ヒタノが角で串刺しにして助けてくれる。しかし、翌朝、“命じられたことは何でもする” 父が、他の2人の男と共にヒタノを探しに来る。「お前は家に帰れ。ヒタノは連れて行く。2人の男の人も一緒だ。彼らは、アルカルデ〔裁判官〕の手紙を持っている」。レオナルドは激しく反論する。「僕らだって手紙がある。ヒタノは盗まれたんだ! なんでアルカルデの手紙なんか怖がるんだ? なんで、パパは、奴らの前で 犬みたいにへつらうんだ?!」〔まさに、その通り。ボスが破産したのなら、もう牧童でもないので、なぜ、そこまで “へいこら” する?〕。父は、「男として すべきことをしているだけだ。これ以上 私を侮辱することは許さん。私はお前の父親だぞ」と威喝する〔この映画では、バルガスに次いでダメな男。男の気概ゼロ〕。現代なら、レオナルドは、こんな “ダメ親爺” に離反するだろうが、半世紀以上も前なので父親の権限は絶大だ。まして、レオナルドは素直な子なので、父の言葉に従う。レオナルドは父の馬に乗り(2枚目の写真)、ヒタノは2人の男が確保する。ヒタノは、7000ペソで買い手がつく〔https://fxtop.comによれば、1950年代の換算率は1ペソ=28800円とある/他のサイトでも、当時は1ペソ=80ドルと固定されている。さらに、1ドル=360円なので、結果はやはり28800円となる/すると、7000ペソは約2億円になる/現在の物価に換算すれば約12億円だ/競馬と違い、1回で殺されてしまう牡牛がそんなに高いとはとても思えないのだが…〕。競売が済んだ後、レオナルドはバルガス、「あれは、僕らの牡牛だ。ドン・アレハンドロが下さった。売っちゃダメだ! あんたのじゃないだろ!」と激しく抗議する。「(破産処理にあたり)裁判所は、焼き印のある牡牛はすべて売るよう命じた。その牡牛にも焼き印がある」〔押させたのはバルガスだ〕。レオナルドは、「そんなことできるもんか! 僕が許さない! ドン・アレハンドロが、手紙で、僕らのものだって書いてよこしたじゃないか!」と、相手が誰であろうと、正論をぶつける(3枚目の写真)。「もし、手紙を持ってれば、読んでやるぞ」。「どこにあるか、分からないよ。ずい分前のことだから」。「自分の焼き印も押さず、手紙もなし。非常に不注意だな」〔手紙を保管していなかったのは、先に書いたように、この親子の最大の不注意。ここで、さらに焼き印が加わる。なぜ、愚かな父は、前の母牛の時のように、“R” の焼き印を押さなかったのだろう?〕〔映画では、これ以後もう父親は登場しないが、本当に役立たずの人間だった〕
  

その夜、ヒタノはトラックに乗せられ、メキシコシティに送られるが、レオナルドは門の庇の下で待ち構えていて、トラックに飛び移る(1枚目の写真、矢印は落下の方向、馬を入れる囲いの背が高いので、安全に降りられる)。トラックの荷台には馬の面倒をみるための男が乗っていたが、彼は、メキシコシティの人間で、レオナルドが誰かも知らないので、追い出すことなく歓迎する。メキシコシティしか大都市を見たことがないこの男は、「世界で一番美しい街だ。パリなんかスラムだ」と自慢する。「パリに行ったことあるんですか?」。「まさか! メキシコシティに住んどるのに、なぜパリなんか行かにゃならん?」〔井の中の蛙の典型〕。朝になり、トラックは、メキシコシティの朝の渋滞に巻き込まれる。昭和30年頃の東京の写真と比較すると、当時はメキシコシティの方が遥かに賑やかだった。男は、「お早う、チャマコ〔坊主〕」とレオナルドを起こすと、「メキシコシティに入ったぞ」と言い、レオナルドの体を抱いて街が見えるようにする。「西洋一美しい街だ」(2枚目の写真)。次のシーンで、トラックは街の中心のレフォルマ通りを走る。正面には独立記念塔が見える〔闘牛場は、記念塔の南南西5キロにある〕。そして、次のシーンでは、もう闘牛場に着いている(3枚目の写真、矢印はレオナルド)。トラックは、そのまま闘技場の建物の中に入って行く。
  

レオナルドは、誰もいない観客席の最上段を歩いてみる。ここで、大好きなヒタノがもうすぐ死んでしまうかと思うと、気が気でない(1枚目の写真)〔中央の円形の部分は直径43メートル〕。レオナルドは、ヒタノが入れられている狭い囲いの覗き窓から、「ヒタノ」と呼びかける(2枚目の写真)。「大丈夫だから。そこで待ってて。僕が何とかする」。それを聞いた男は、「チャマコ、お前さんの件は、ほとんど望み薄だな。この牡牛の持ち主を知ってるが、お前さんの話なんか撥ねつけるだろう」。「でも、それって誰なの?」。「エンプレサリオ〔起業家〕のガオーナで、金の亡者だ」。「どこに行けば会える?」(3枚目の写真)。「街にある切符売り場だ」。さらに、「チャマコ、もうすぐ昼だ。闘牛は4時からだぞ!」と、ほとんど時間がないと注意する。「ありがとう」。レオナルドは、どこかで切符売り場の場所を訊き、やっとの思いで都心にある売り場に着くが、そこにいるどの係員に訊いても たらい回しにされ、結局、相手がどこにいるのか分からない。
  

どうしようもなくなったレオナルドが辿り着いた先は、闘技場の7キロ北東にあるベニート・フアレスの記念碑〔ここに来るだけで2時間は消えた〕。レオナルドは授業で聞いた言葉を思い出す。「偉大なフアレスは、メキシコの大統領として、人々の声に耳を傾けました」(1枚目の写真)。「大統領… それしかない!」。レオナルドは、チャプルテペック城〔ベニート・フアレス記念碑の西南西4キロ/闘牛場からだと真北へ4キロ〕に向かう。レオナルドが、なぜここに向かったのかは分からない〔この城は、マキシミリアンがメキシコの皇帝として即位した場所だが、ベニート・フアレスは3日滞在しただけ〕。レオナルドが1時間かけて城まで行き、入口にいた係員に「大統領に会いに来ました。どこに行けば?」と尋ねると、「君は誤解しているようだね。今、ここには誰もいない。今は博物館〔国立文化博物館〕になっている」と告げられる(2枚目の写真)。レオナルドは、街で見かけた新聞の売り子に、「メキシコの大統領を探してます。どうしても会わないと」と訊き、「国立宮殿に行けばいい」と教えてもらう。今度の場所は、チャプルテペック城の東北東5.5キロ。ベニート・フアレス記念碑からだと僅か1.3キロ東なので、全くの無駄足を踏んだことになる〔ベニート・フアレスのいたのは、この国立宮殿〕。この頃、もう時間は午後4時になっていた。そして、闘牛開会のセレモニーが始まる。レオナルドは長い宮殿の唯一の開口部から入って行き(3枚目の写真)、係官に「大統領は?」と尋ねると、彼は、無責任に指差す。闘牛場では、最初の牛コルティヘロが登場する。レオナルドは、内部の大きな階段を登る。そこにいた秘書のような女性に、「誰か探しているの?」と訊かれ、「セニョーラ、大統領を探しています」と答える。「まあ、でも、今日は日曜日でしょ。どこも閉まってるわよ」〔最初の係官が不親切〕。「でも、今日でないと」。「大統領は、ロス・ピノスの私邸にみえるわ」〔国立宮殿の西南西6.5キロ。チャプルテペック城の僅か1キロ南西〕。何だか、右往左往させられている感じで、時間ばかりがどんどん過ぎて行く。
  

レオナルドが私邸に向かって走っている頃、闘牛場では、2頭目のバルデローゾが登場する。一方、私邸では、現職の大統領(この時代はアドルフォ・ルイス・コルティネス)が滞在しているため、これまでと違い、警備は厳重だ(1枚目の写真)。レオナルドが門に近づこうとすると停止させられ、中から出て来た衛兵が、「何だ?」と訊く。「ここに大統領はおられますか?」。「大統領に何の用だ?」。「すごく大事なことなんです。どうやったら、中に入ることができますか?」。「守衛に訊きなさい」。そう言うと、門の中に戻る。レオナルドは、門の右脇にある守衛のところに行き、「どうやったら、大統領に会えますか?」と訊く。「残念だが、できない」。「僕、すごく遠くから来たんです。どうか、助けて下さい」。「『できない』と言ったろ。立ち去れ」。レオナルドは泣き始める(2枚目の写真)。レオナルドが、守衛室を曲がると、1台の高級車が守衛室の前を通り、門の前で停まる。事前に連絡があったらしく、すぐに門が開けられる。レオナルドは、トランクが少し開いてプカプカしているのに気付き、すぐに中に潜り込む(3枚目の写真)。車は、そのまま私邸の玄関前に着く。車のラジオは、2頭目が殺される直前の状況を中継している。運転手がラジオに気を取られている隙に、トランクから出たレオナルドは、すぐ脇の窓の鉄格子の隙間から建物内に侵入する(4枚目の写真)。
   

立派な部屋の中に入ったレオナルドが、きょろきょろ見ながら奥に入って行くと、突然、声がかかる、「坊や、誰か捜しているのかね?」。柱の影から顔を出したレオナルドは、「大統領様ですか?」と尋ねる(1枚目の写真)。「そうだ。迷子になったのか?」。「いいえ、大統領様」。そう言うと、レオナルドは、机の前まで進み出て、「セニョール、僕、ヒタノのことで、すごく遠くから来ました」と言う。「ヒタノ?」。「はい。父さんと僕の牡牛で、ドン・アレハンドロ・ベディガライから いただいたんです。ヒタノは、僕から取り上げられてしまい、今、闘牛場に… そして、殺されてしまいます。どうか助けて下さい。死なせちゃダメです! セニョール、ヒタノを救わないと! バルバルデ神父ご自身が、祝福して下さった牡牛です。祝福された動物は、殺しちゃいけないはずです。殺すなんてできないはず…」(2枚目の写真)。これだけ一気に言うと、レオナルドは泣き始める。その頃、闘牛場では、3頭目のネグリートが登場する。先ほどのレオナルドの説明だけでは、具体的に何をしたらいいか分からないので、大統領は質問したのであろう。そして、次のシーンでは、大統領は手紙を書き終わる。「私には、君の牡牛を助けろとガオーナ氏に命令することはできない。彼が、そうしてくれるよう希望すると頼んだ。持っていきなさい」と手紙を渡す。「どうもありがとうございます」。レオナルドは、待っている執事の前まで行くと、振り返ってもう一度感謝する(3枚目の写真、矢印は手紙)。
  

大統領の配慮は行き届いていて、玄関の前にはサイドカー付きのオートバイが待機している。レオナルドが、それに飛び乗ると、オートバイはすぐに発車。先ほど、難関だった門もフルスピードで通過。オートバイはサイレンを鳴らし、闘牛場に向かって走る(2枚目の写真)〔実走行距離は4.2キロほど。ノンストップで時速80キロで走れば、僅か3分強で到着する〕。闘牛場の入口に着いたレオナルドは、「ガオーナさんはどこですか?」と訊く(3枚目の写真)。その頃、3頭目の死骸が運び出されるところだった。
  

闘牛場では、アナウンスが4頭目で最後のヒタノについて名を読み上げる。レオナルドは、一番下の通路にいたガオーナに手紙を見せる。大統領の直筆の手紙なので、ガオーナは真剣に読み(1枚目の写真)、すぐに行動に出る。しかし、トランペット・タンバリンの音が響き、ヒタノが通路を走り始める。ガオーナは手紙を手に、「扉を開けるな!」と叫びながら走る(2枚目の写真、矢印はガオーナ。黄色の丸の中は、レオナルドの頭)。走る速度はヒタノの方が早く、2人が扉に着く前に、もう闘牛場に飛び出してしまった(3枚目の写真、矢印はレオナルド、その左にガオーナ)。もうこうなっては、止めることはできない〔なぜかは、知らないが…〕〔ガオーナの登場はこれで最後となるので一言。日本版のDVDの字幕では、なぜか “Gaona” をハルナと訳している/“Gitano” がヒタノなので、Gはどんな場合もHだと思ったのかも知れないが、とんだ誤訳だ。“Gaudi” はガウディ、“Galicia” はガリシア〕
  

ヒタノは、フィールドに飛び込んで行くと、助手たちが振るカポテ〔ケープ〕目がけて突進していく。助手がタブラ〔板〕の裏に隠れる回数が多いのは、ヒタノの反応が早く走るから。ある時は、タブラに隠れた助手を追って行った勢いで、ヒタノは柵を乗り越えて客席との間の通路に入り込む(1枚目の写真)。通路にいた人は、助手を含め、柵からフィールドに逃げる。1人の助手は上手にヒタノをカポテでさばくが、他の牡牛と違いヒタノの勢いは衰えない。その姿を、レオナルドが心配そうに見つめる(2枚目の写真)。ここで、トランペット・タンバリンの音が響き、手順に則り、バリラルゲーロが登場する。ヒタノは、カポテを振る助手など放っておいて、馬に襲いかかり、バリラルゲーロが馬から落ちる(3枚目の写真、矢印)。ヒタノがバリラルゲーロを攻撃しないよう、複数の助手が周りに散開し、カポテを振る。
  

次の見どころは、タブラに逃げ込んだ助手を追っていったヒタノが、タブラの上部の板を突き破って壊す場面(1枚目の写真)。ヒタノは、疲れるどころか、勢いは増すばかり。バリラルゲーロによって、槍を刺されていないのも、力が弱くならない理由。ここで、3人のバンデリジェロが登場。2本ずつ短い銛(もり)を両手に持ち、3回、計6本を刺す(2枚目の写真は準備の雰囲気、3枚目の写真は5・6本目を刺す瞬間)。
  

最後に、トランペット・タンバリンの音が響き、マタドールのリベラが登場する。ムレタという赤いフランネルの布を持ち、エストックという針のように細く長い剣を手に持つ(1枚目の写真、後ろでレオナルドが睨んでいる)。エストックは、マタドールが、牡牛の肩の間に45度の角度で刺し、心臓と大動脈を切断するという恐ろしい役目を持っている〔現在、闘牛が、動物愛護団体から敵視されている理由は、その残酷さにある〕。用意が整うと、リベラはモンテラ〔闘牛士帽〕を掲げ、観衆に向かって挨拶する(2枚目の写真)。リベラは、最初、エストックをムレタで包み、普通のカポテのようにして、ヒタノの攻撃をかわす。闘技場が満席状態で撮影されたことが分かるのが、3枚目の写真。赤いムレタに向かって行くヒタノを見分けることができる。
  

リベラが、最終段階の “殺し” に入る前に “ムレタ” で戯れている時、近寄り過ぎたためか、リベラの上腕部の服がヒタノの角で裂かれる(1枚目の写真、矢印)。ケガはなかったが、ヒタノの強さがよく分かる。リベラは、遂に “殺し” の構えを取る(2枚目の写真)。しかし、ヒタノは頭を下げずに突進してくるため、エストックは角に跳ね返されてしまう。次に、リベラは再びムレタをカポテのように扱って、ヒタノをかわすが、その途中で角に引っ掛けられ、宙に舞う(3枚目の写真)。助手4人が駆けつけ、リベラを守ろうとするが、リベラはケガもなく立ち上がる。そして、一旦、柵に戻ると、破れた上着を脱ぎ捨てる。そして、ムレタでヒタノをかわし始めるが、その時、初めて、“Indulto(赦せ)!” の声が観衆の一部から上がる。アナウンサーは、「私が覚えている『赦し』は、1937年のモンテレイだけです」と、可能性を否定する。しばらくして、アナウンサーは、「『死の場』になって、もう15分が経過しました」と言う〔現在では制限時間が設けられ、10分で警告、15分で闘牛を殺す権利が剥奪される〕。リベラは、2回目の “殺し” の構えに入る。しかし、2度目の空振りを喫し(4枚目の写真)、その上、地面に投げ出される。再び助手4人が駆けつけ、リベラを守ろうとする。リベラは再び立ち上がるが、アナウンサーは「ヒタノは何と素晴らしい牡牛でしょう」と絶賛する。
   

それとともに、“Indulto(赦せ)!” の声が再び上がり、今度は会場全体に拡がっていく(1枚目の写真)。それを見た貴賓席では議論が交わされ、リベラが3回目の “殺し” の構えに入った時、ボスが白いハンカチを振る(2枚目の写真、矢印)〔現在では、オレンジ色のハンカチ〕。それを見た観衆からは、一斉に拍手が起こり、レオナルドの顔は歓喜に満ちる(3枚目の写真)。
  

レオナルドは柵を乗り越え(1枚目の写真)、ヒタノに向かって走って行く。観衆からは、一斉に悲鳴が上がるが、それまで興奮して暴れていたヒタノは、レオナルドの呼びかけで急におとなしくなる。レオナルドは、「僕のちっちゃなジプシー。一緒に生きようね」と、抱きつく(2枚目の写真)。そして、レオナルドがヒタノを連れて出口に向かうと、一斉に割れんばかりの拍手が起きる(3枚目の写真)。そして、1人と1頭は通路のトンネルの中に消えて行く〔大統領の依頼をガオーナが受け入れた以上、もう誰もレオナルドとヒタノを止める者はいない。ヒタノは素晴らしい種牛となり、レオナルドの将来に幸福をもたらすことであろう。顛末を伝え聞いた大統領が、何かプレゼントしたかもしれない。腰砕けの父親は、これ以後、レオナルドに対し、“親の権威” を振り回すこともないであろう〕
   

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